大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和24年(ヨ)97号 判決 1949年12月08日

申請人

小島悦吉

外五名

被申請人

徳島県

主文

本件申請はいづれもこれを却下する。

申請費用は申請人等の負担とする。

申請の趣旨

(一) 被申請人が昭和二十四年九月十七日申請人小島悦吉、大久保生典、島芳明、田宝知幸に対してなした休職及申請人森内重信、勝瀬博昭に対してなした解職の効力は夫々本案判決に至る迄停止する。

(二) 被申請人は申請人の同意なしには申請人に対し賃金の支払その他労働条件に付従前の待遇を不利益に変更してはならない。

事実

申請人等はいづれも被申請人に雇傭せられていた職員で

小島悦吉 徳島県技術吏員 徳島県経済部畜産課

大久保生典 徳島県事務吏員 同農地部農業協同組合課

島芳明 同 同農地部農地課

田宝知幸 同 同

森内重信 徳島県嘱託 同

勝瀬博昭 徳島県雇 徳島県那賀郡地方事務所

に夫々勤務し常に誠実に職務を履行し何等の過怠を犯していないのに拘らず被申請人は具体的に理由を明示することなく一方的に昭和二十四年九月十七日附を以て申請の趣旨記載の通り夫々休職或は解雇した。然し右休職或は解雇は次の如き理由で無効である。即ち

(一)  被申請人は申請人等が日本共産党に関係ある故を以て休職或は解雇したと公然と言明し或は暗々裡に言及しているが申請人等の内田宝知幸、森内重信、勝瀬博昭は日本共産党に何等関係ないばかりのみならず仮令申請人等全員が日本共産党に関係ありとしてもその故に休職或は解雇等の不利益な処分を受けることは日本国憲法の諸規定或は労働基準法第三条により許されないことである。

(二)  申請人島芳明は徳島県職員労働組合執行委員、申請人大久保生典は同組合中央委員農業協同組合課分会長申請人勝瀬博昭は同組合中央委員として、申請人田宝知幸は海部地方事務所で、申請人森内重信は同組合農地課分会の分会大会で議長となつて夫々労働組合運動に熱心に活動を続けていたが被申請人は斯の如く申請人が労働組合運動に熱心であつたことを休職、解雇の理由の一つとしているが之は明に労働組合法第七条に違反した無効な処分である。

(三)  被申請人は申請人等に対し抽象的に職員として信頼出来ないとか、職員として好ましくないとか等のことを休職解雇の理由の一つとしているが県庁職員二千数百名の内唯申請人数名のみを目して職員として信頼出来ないとか職員として好ましくないとか言うことのみの理由にて休職解雇せられることは現下の就職難時代に於ては労働基準法第二十三条の「労働者の就業を妨げる行為」に該当し又失業者となつた後の生活難のことに思をいたせば憲法に保障する生存権と勤労の権利を奪うもので到底許されないものである。

以上の如き理由で本件休職、解雇の無効確認の訴を提起すべく準備中であるが休職、解雇により収入の途は奪われ或は減少し今日の社会的経済的状態に於ては斯様な状態で本案判決確定に至る迄放置せられては後日本案訴訟に於て勝訴の判決を得るも回復することの出来ない損害を蒙るので右申請に及んだ次第であると述べ、尚本申請は民事訴訟法の規定する仮処分の裁判を求めるものであつて行政事件訴訟特例法第十条第二項に定める処分の執行停止を求めるものではないと述べ、被申請人の答弁に対し本件休職処分が徳島県職員委員会に附議されたことは認めるが同委員会の承認を得たことは否認する。而して右休職処分の根拠となつている地方自治法附則第五条に基き適用される官吏分限令は憲法に違反する法令であるとし、

尚申請人等(申請人小島悦吉を除く)は申請人等の身分関係は私法上の雇傭関係と何等異なるところなく従つて被申請人の休職解雇は雇傭契約の解除であり此に対しては一般私法及労働関係法規が適用されるものであると述べた。(疎明省略)

被申請人代理人は主文同旨の裁判を求め其の答弁として申請人等が孰れも其の主張の通り徳島県の職員であつたが昭和二十四年九月十七日附を以て休職又は解雇したことは認めるが爾余の主張は全部否認する。即ち

申請人小島悦吉、大久保生典、島芳明、田宝知幸に対しては地方自治法附則第五条に則り分限委員会(昭和二十四年政令第七号による都道府県職員委員会)の承認を得て官吏分限令第十一条第一項第四号に謂う事務の都合により適法に休職処分にしたものであり

申請人森内重信、勝瀬博昭に対しては部下として信頼出来ないから解雇したもので嘱託、雇と雖も知事の任命した公務員でありその性格は吏員と何等変ることなくその任免権は知事の行政上の権限に属する行政処分であつて此の知事の権限に基きなした本件解雇に付ては行政事件訴訟特例法第十条に則り民事訴訟法の規定による仮処分は許されないところである。

仮りに本件申請が適法なりとしても被申請人は申請人等主張の如き理由で休職解雇したものでなく地方自治法の規定に従い官吏分限令によつて適法に休職にし或は又知事の権限に基き解雇したものであるから何等違法或は無効となるべきものではないと述べた(疎明省略)

理由

申請人小島悦吉、大久保生典、島芳明、田宝知幸は孰れも徳島県吏員として、申請人森内重信、勝瀬博昭は徳島県嘱託或は雇員として夫々勤務していたところ昭和二十四年九月十七日附を以て申請人小島悦吉、大久保生典、島芳明、田宝知幸は休職となり森内重信、勝瀬博明は解雇せられたことは当事者間に争はない。

然して申請人等は右休職或は解雇が無効なりとの前提のもとに本件申請に及んだものであり本件申請を民事訴訟法の規定による仮処分の申請であるというけれども

(一)  申請人小島悦吉、大久保生典、島芳明、田宝知幸に対する休職処分は地方自治法第百七十二条所定の地方公共団体の吏員である同申請人等に対し地方自治法附則第五条により準用される官吏分限令の規定に従つてなされた休職処分であることは(それが適法な手続を経たか否かは別として)甲第一号証の一乃至四によつて明らかであつて右は地方自治法第百七十二条により地方公共団体の長たる徳島県知事の有する任免権に基き徳島県がなした行政処分であるものと解すべきであるからこれに対し一般民事訴訟法の規定による仮処分の申請は行政事件訴訟特例法第十条に則り許されないところで爾余の点を判断する迄もなく本件申請は却下を免れない。

(二)  申請人森内重信、勝瀬博昭は徳島県の嘱託或は雇であるがこれらの嘱託或は雇員といえども昭和二十三年七月二十二日内閣総理大臣宛連合国最高司令官の書簡にいわれているとおり「その勤労を公務にささげる者は私的企業に従う者との間に顕著な区別が存在するものであつて前者は国民主権に基礎を持つ政府によつて使用され公共の信託に対し無条件に忠誠の義務を負うべきものであり又右書簡に基く同年七月三十一日政令第二百一号が任命によると雇傭によることを問わず公務員を全く同一に取扱い或は地方自治法第百五十四条の普通地方公共団体の長は補助機関たる職員を指揮監督する等の規定又は国家公務員法に於て国家公務員は任命によると雇傭によるとを問わず同一に取扱つている点等からして既に地方公務員法の制定をまつまでもなくその法律関係は吏員と同様公法上の関係にあるものと認むべきである。従つて之が任免の処分は行政処分であるから右解雇処分に対する一般民事訴訟法の規定による仮処分の申請は前同様却下を免れない。而して申請人等は一応本件申請は民事訴訟法の規定による仮処分申請であると述べているが昭和二十四年十一月十六日右各休職解雇の処分を取り消す旨の本案訴訟が提起され当裁判所に於てこれを行政事件訴訟として受理したことは当裁判所に顕著な事実であるから本件申請を行政事件訴訟特例法第二条の訴の提起あり同法第十条第二項の規定に従い本案訴訟の目的である行政処分の執行停止の申請と見る余地があるように一応考えられないこともないけれども法は両者の区別を明確にしこれをもつてかれにかえることは許されないものというべきであるから更に進んで右行政事件訴訟特例法による申立としての判断を加えない。

以上の理由により本件申請はいずれも適法でないものとして却下するほかはないので民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例